インターネット関連株や情報関連株が著しく急騰、株価がみるみる急上昇していく展開に一部の投資家たちは浮き足立ちます。
今買わなければ乗り遅れる!
その象徴が、2000年に入った正月明けにはソフトバンクの株価が実に1億円を突破したのです。
一株買おうと思ったら一億円ですよ。。。
やはり異常ですね。
もはや投資家たちは異様な心理状態に陥り、我先にと買い急ぐ、皆が買うから株価は更にどんどん上がり続ける。
いわゆるITバブル相場を形成したのです。
ITバブルが生んだジェットコースター相場
そして2000年に入ると、3月に週刊誌が報じた光通信の記事をきっかけに、今度は急降下を始めます。IT関連株は、軒並み著しく下落し続けました。
渦中の光通信などは、20日連続でストップ安が続いたと言いますから、その凄まじさが伺えます。
20日連続ストップ安とは、まさにジェットコースターのように株価が急降下したと言う事です。
まさに前代未聞。
そしてこれらのIT関連の株価は、100分の1まで転がり落ちました。
類いもれず、ソフトバンクの時価総額は20兆円からいっきに暴落、2,000億円まで真っ逆さまです。
何と1/100、わずか1%になってしまったのです!
100万円投資したなら1万しか残りません。
1,000万円なら僅かに10万残っただけです。
文字づらだけで読むだけなら、ふ~んみたいな感じでピンと来ないでしょう。
いざそれが自分の事だったなら。。
考えたくもないですね。
怒号飛び交う株主総会の大波乱
さて、そんな前代未聞の大相場が展開された中での株主総会。虎の子の投資資金が紙くず同然になった怒りから、客席の株主たちは諸毛もさかだって怒り心頭に発しています。
うそつき、バカ野郎、金返せ、詐欺師、・・・
会場内は、怒涛の怒りとあらゆる怒号が飛び交う修羅場と化したそうです。それはそうでしょう。
そんな中にあって、孫正義氏は壇上に延々6時間立ち続け、真摯な姿勢で投資家に今後の理念やビジョンを語り続けたと言います。
しかし投資家は、そんな説教じみた説明になど聞く耳を持ちません。
手持ちの株価が、100分の1にまで落ちぶれてしまったのですから当然です。
一人の老婦人に救われたITビジネス界の巨人
そんな中で、総会後半に差し掛かったときに、一人の老婦人が静かにこう発言したそうです。「私の主人は既に他界しています。
長い間一生懸命に働いて、私に残してくれた大切な退職金が1千万円、それは私にとっての全財産です。
それを全て孫さんの会社に投資させて頂きました。
このような結果になってしまいましたが、私はあなたを信じています。
どうかこれからも頑張って下さい」
会場は水を打ったように静まり返ります。
あちらこちらで、涙を拭う光景が見られたと言います。
孫正義氏はこのエピソードについて、後に述懐しています。
「胸の奥底をえぐられるような、この一投資家の言葉を、私は生涯忘れる事はないだろう」
他山の石とすべき孫氏と一投資家の心の持ち方
さて読者のあなたなら、この老婦人の立場であったなら、どのような心理状態になるでしょうか。上記のような「これからも頑張ってください」との寛大な心を持てるでしょうか。
先立った夫が残してくれた血と汗の退職金一千万円が、十万円ぽっちになってしまった上でのこの発言。
この達観あるいは諦観とも言える心の寛大さと、先の心配や不安など億尾にも出さない懐の深さ。
また、孫社長の立場にあって、怒り狂う株主達を相手に地に足のついた落ち着いた受け答えが出来るものでしょうか。
相当の猛者ではない限り、オロオロになって萎縮してしまうだろうと思います。
かく言う私が孫氏の立場なら、間違いなく自分自身を見失ってパニックになるに違いありません。
だからこそ他山の石のごとく、孫氏のような磐石で確固たる意思のかけらでも私は持つ必要があると考えます。
そして、老婦人のまさに寛大で太っ腹なふところの大きさも見習わなければいけません。
彼女はかくも人生の修羅場をくぐり抜けていく度量の持ち主ですから、その後も確たる足取りで余生を歩んでおられるに相違ありません。
まったく見習うべきところ多々有りに尽きます。