ここで取り上げるのは、アメリカの社会学者エベレット・ロジャーズが自書「普及学」によって広く世に問い、大きな反響のもと全世界へ広がったマーケティング論のひとつです。
ちなみに「普及学」とは、新しい技術やモノのアイデアが開発され生み出された場合、それが社会に広がる場合とそうでない場合が起こる原因はどこにあるのか。
また、どのような過程で普及していくのか。
それらを解析する学問です。
イノベーター理論は、マーケティングを学ぶ過程では絶対に外せない必須理論とされる重要な位置づけにあります。
この機会に、しっかりとインプットしておいて損はありませんよ^^
携帯電話に飛びつく人・無視する人
イノベーター理論は、新商品を買う場合に購入者はどのような思考と態度の元で購買決定するのかを分析しています。そして、時間経過の早い順から5つのタイプに分類する理論です。
新しい商品や革新的な技術は、なぜ社会一般に受け入れられる場合と見向きもされない時があるのか、
またどのような過程で広く世間一般へ拡がっていくのか、
それらを、時間軸を伴って解き明かしています。
たとえば、携帯電話を思い出して下さい。
今から25年前、携帯電話が爆発的に普及し始めた時期は、「これはすごい!」と直ぐに飛びつく一部の新しい物好きがいました(私がそうでした)。
その一方、まったく興味を示さない大多数の人たちがいた訳です(まだ生まれていない読者さんもいますね)。
20代や30代の若年層が、ですよ。
それが今では、一部の小・中学生そして高校生から20代~60代の世代であるならば、圧倒的大多数がスマホかガラケーを持っています。
両方を持ち歩く方も結構いますね。
それが、わずか20数年前には、圧倒的多数の人たちが携帯電話の登場には関心が無かったのです。
黎明期とはそんなものですが、ちょっと信じられないかも知れません。
本当に、時代の流れを感じます。
黎明期はこんなに原始的だった携帯
初期の携帯は、本体はまだ大きめズングリした形で、伸縮式のアンテナが付いていました。電話を受信する時に「ピッとアンテナを伸ばしてから会話を始める」
それがひそかに優越感でした(いやみなヤツです笑)。
その時期は、小型端末で電話出来ること自体が、かなり画期的な光景に見えました。
それが直ぐに、電話の送受信だけでなく、メールのやり取りが可能になります。
とは言っても、メールはまだカタカナだけの表示でした(今からは考えられないですね笑)。
それが、ひらがな表示が可能になり漢字表記も出来るようになり・・・
そのうち携帯画面でテレビ画面を受信出来るようになり、インターネット接続が可能になります。
このネット接続が可能になった事こそ、携帯電話が爆発的に普及加速する大きな分岐点だったのです。
携帯電話の付加価値が、まさに驚くべきスピード感を持って進化した時代でした。
まさに、紀元前紀元後と同じように、インターネット前と後なのです!
無関心な購買層がやがて動き出す心理
すると、その圧倒的多数を占める「興味を示さない人たち」も、時を経るにつれて「そろそろ自分も買おうか」となっていきます。今まで全く無関心だった購買層も、次第に興味を持つようになり、やがて世間のトレンドに従うのです。
このように新商品に対する購買意欲や意思・態度は、人それぞれ違います。
そこに鋭く切り込んだのが、イノベーター理論です。
では、5つの分類を時間軸の経過に沿って見て行きましょう。
1.イノベーター【革新者】
新しい商品や斬新なアイデアが発表されると、いち早く積極的に動き出す層です。
そのモノ自体の目新しさ・革新的な技術に対して、深い関心と興味を持つ傾向が強いのです。
この際、商品が持つ利益性や自身が受ける事の出来る恩恵・メリットなどは、ほとんど無視される傾向にあります。
そのような利益やメリットよりも、新しくて画期的な商品を手に入れる事による満足度を重視するのです。
それが利用価値があるとか価格以上の使用価値があるとか、そんな事は二の次。
要するに、誰よりも真っ先に商品を手に入れるべく情報収集には敏感、まっしぐらに購入します。
レアなプレミアム新商品を手に入れた満足度が、この層の顧客は大変高いわけです。
イノベーター層は、マーケット全体の2.5%を構成する事からも、全体のごく一部の購買層です。
2.アーリーアダプター【初期採用者】
イノベーターほどではないにせよ、世間の流行トレンドには敏感に反応する購買層です。
情報収集は自らが行って、自ら価値判断を下す傾向があります。
アーリーアダプターが商品を購入する行動は、後に続くその他大勢の購買層へ大きな影響力を持つ事から「オピニオンリーダー」と呼称される存在です。
オピニオンリーダーは、集団に与える影響力が非常に大きな人物を言いますよね。
ブログなどSNSの分野ならば、先導的役割を果たす「インフルエンサー」的な立場でもあります。
彼らの消費行動が、その後に商品が社会一般へ拡散し拡がるか否かを握り、社会全体の購買活動を左右する非常に重要なポジションなのです。
そんなトレンドに敏感なアーリーアダプターは、市場全体では13.5%を構成する購買層となっています。
わずかに、全体の一割強のみなんですね。
3.アーリーマジョリティ【前期追随者】
アーリーアダプターほど早くはないけれど、マーケット全体で見るならば比較的早めに新商品を購入する層です。
購入を検討する際には、いろんな角度からメリットデメリットを検討する慎重派です。
ですから、新しい情報を得てから購入まではある程度の時間を要するのも特徴的です。
しかしながら、目新しい商品や斬新なアイデアが市場深くまで行き渡る為のカギを握る層である事は、間違いありません。
この事から、ブリッジピープルとも呼ばれています。
アーリーマジョリティの購買層は厚く、マーケット全体の34%を占める重要な存在です。
4.レイトマジョリティ【後期追随者】
世の中の評判やうわさには、興味をあまり示さない層です。
新しい技術や目新しいアイデアなどは無関心、我が道を行く傾向が強い顧客層と言えます。
- 「ホントにそれ、大丈夫なの?」
- 「すぐに壊れないの?」
- 「長持ちする?」
広告やCMなどで宣伝するほどに、かえって疑い深くなっていく傾向が見られるかも知れません。
周囲のほとんどの人たちが使っているとの事実を確認してから、ようやく「それなら自分も」と動き出します。
要するに、つねに周辺の購買動向こそが購入する判断基準になる人たちです。
- 「○○はまだ買っていない」
- 「▲▲もまだ持っていない」
- 「だからまだ買う必要はない」
とにもかくにも慎重派で、急ぐ事などありません。
そんなレイトマジョリティ層も全体の割合は大きく、市場全体の34%を占めています。
5.ラガード【採用遅滞者】
良くも悪くも、ものごと全般に保守的な考えを貫く購買層です。
最後の最後まで、新しい商品を買わない傾向が見られます。
もはや「持っていない事自体めずらしい」状況になって、ようやく動き出します。
言い換えるなら、世間のトレンドなどにはほとんど関心を示さない顧客層です。
分かりやすく例えるなら、いまだに携帯電話やスマホを必要ないと言って持たない層です。
今どきちょっと珍しい存在ですね。
車の所有ならば、
- 「事故が起きるかもしれない」
- 「バスや電車を使えば済む事」
- 「そんな金はない」(実際は購入可能なのに)
ある意味、貴重な存在と言えるかも知れません。
キャズム理論とは大きなミゾ!
先ずはとにかく真っ先に、先手必勝で新商品を手に入れる欲求を満たすのが、イノベーター。次に追うのは、世の中でもいち早くトレンドを取り入れる購買層がアーリーアダプターでしたね。
この二つのマーケットを併せて、初期市場と呼びます。
初期市場からの影響を受けて、慎重ながらも早めにトレンドを追う多数派の顧客層がアーリーマジョリティ市場。
そして後塵ながらも「皆が買うから自分も買う」レイトマジョリティ層。
この二つは、メインストリーム市場と言われます。
初期市場⇒メインストリーム市場
実は、この初期市場とメインストリーム市場、2つの間には目に見えない【大きなミゾ・厚いカベ】がある
これをキャズム理論と言います。
「キャズムを超えるには」
「いかにしてキャズムを超えるか」
例えばこのような使い方がされています。
アメリカの経営コンサルタントであるジェフリー・ムーア氏が提唱した理論として有名です。
企業において、新商品をこれから売ろうとする段階では、この大きなミゾを何らかの販売手法・営業戦略と販売戦略を武器に乗り越える必要があるのです。