よく知られているように、かの大作曲家は両耳の難聴疾患を患い、音楽家として致命的とも言える障害に悩まされ続けました。
にもかかわらず、幾多の人類の至宝と言える名作を生み出したところが、本当に素晴らしい。
静穏と自由は最大の富である
この名言は、ベートーベンが40代後半に手紙以外のメモ書きに書き残したものです。既に20歳代後半から耳の難聴に悩まされるようになり、28歳には両耳の聴力をほとんど失ったとされています。
彼が楽譜の構想を練るスケッチやペンを書き連ねたメモ帳の中には、耳鳴りに常に苦しめられた惨状がリアルにしたためられています。
『難聴』と、ただ表現するだけならば「聴こえ難い」「ほとんど聴こえない」「何も聴こえない」と捕らえらるかも知れません。
しかしそうではないのです。
ザワザワ、ザワザワと不快な耳鳴り音が、つねに天才作曲家を襲っていたのです。
ベートーベンも一人の人間
この名言は、そのような身体的な苦痛からくる「どうか症状が快方に向かって静けさがもどりますように」との切なる願いがひとつ。もうひとつは、彼が精神的苦痛からの完全なる開放を心底願ったことからの、この名言だと思います。
甥カールの訴訟問題、恋愛、経済的問題その他いくつもの大きな弊害を一手に背負う重圧は、想像に難しくありません。
ベートーベンとて一人の人間です。
生きていくうえで、それぞれの問題解決を心の底から願い、そしてまた真の自由を獲得することを切に願ったことでしょう。
ごく普通に音が聞こえてくる身体で、自由奔放に作曲に没頭出来る環境があれば・・これこそが自由です。
ただ平々凡々に生活していくだけではなくて、精神的高みを目指しながら日々の仕事をこなしていく・・これも自由ですね。
天才作曲家だからと、困難な現実を哲学的に文学的に難しく解釈しなければならない必要などないのです。
同じ時期にベートーベンは、このような言葉も書いています。
ほんとうに点滴石をもうがつ、実際、ほんとうに点滴石をうがつ
これは有名な格言ですね。【点滴石をもうがつ】
ぽたりと落ちるちっぽけな一滴の点滴ですら、長い年月では石を凹ますほどの力をもっている。
このような意味合いですね。
それをベートーベンが言うと・・・重みが違います。
まさに、言葉に表現出来ないほどの重さと深みを感じます。
実際、ほんとうに、と言う部分が、いかに彼がこの格言に共感したかが伺え知れます。
彼ほどの天才の頭脳・感性・世界観を持ってしてさえも、継続することの大切さを身に染みて感じていた事。
それ自体にまた、私たちも感動すら覚えてしまうのです。
偉人の残した名言は、かくの如き深いものです。